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阿片展示場(ホール・オブ・オピウム)

タイ、ミャンマー、ラオス国境にまたがる山岳地帯にメコン川(正確にはコーン川)が流れるこの場所は、19世紀から阿片の原料となるケシが栽培され、黄金の三角地帯(ゴールデン・トライアングル)と呼ばれる麻薬密売地帯であった。
第二次世界大戦後に中国共産党に敗れた中華民国残党(国民党の一部)は大半が台湾へ逃れたが、一部はタイ北部に移動した。そして最初は国土奪還を目指し、後には少数民族解放を建前に阿片栽培で活動資金を得ることになる。
なぜケシ栽培だったのか。歴史は「アヘン戦争」にまで遡る。

18世紀の英国では上流階級の間にお茶の習慣が広まり、茶葉、陶磁器、絹などを清(中国)から輸入していた。それに対して英国が清に売るものが無かったため当初は銀で支払ったが、やがてアメリカ独立戦争での戦費調達や産業革命での資本貯蓄のために銀を国外に持ち出すことが禁じられ、代わりにインドで栽培していた阿片を中国に送ることで支払うことにした。
これを三角貿易と呼ぶ。その結果、清国内には阿片がはびこり、健康を害する人々が増えてしまった。清は1796年に阿片の輸入を禁止したが以降も密輸され続け、その支払いのために今度は清の保有する銀が英国に流出するようになった。清の経済が崩壊する恐れがでてきたのである。
そこで清は徹底的な阿片の取締りを行い、英国商人が持っていた阿片を没収し処分するとともに商人を追放した。今後一切、阿片を持ち込まないという誓約書を求めた清に対して英国は「清の貿易拒否」というこじつけで戦争を仕掛けた。これが「アヘン戦争(1839年11月3日〜1842年8月29日)」である。
アヘン戦争に敗れた清は、香港を割譲し、主要5都市での貿易を認めざるを得なくなるが、このことが阿片を国の奥深く隅々まで運ぶ事になる。この時期から雲南省では本格的なケシ栽培が始まり、そのケシ栽培の技術が周辺にも伝わっていくことになる。

時は流れて国民党の残党が黄金の三角地帯に入り込み、周囲の少数山岳民族らに強要しケシ栽培を始めた。
その後、麻薬王クンサー(クン・サとも)率いるモン・タイ軍が、ミャンマーからのシャン族独立運動を大義名分にして資金稼ぎのために育て上げた麻薬ビジネスは、世界に蔓延する麻薬供給の半数近くを占めるまでになる。麻薬王に搾取されているはずの地元住民も、農作物よりも高く売れるケシを進んで栽培した。
1996年1月にクンサーがミャンマー軍事政権に降伏し、歴史の表舞台から降りた後もこの地域でのケシ栽培や阿片密売が続いた。しかし以前のような戦争状態が終わったことで、タイ王室プロジェクトと政府の新しい試みが始まることになる。
実際は1988年から1992年の第一期目標で「ケシ栽培と焼畑をやめさせ、周辺のインフラを整備し、山岳民族の生活向上と教育を普及」というスローガンが掲げられた。
現在は1993年から2011年の第二期に入っている。ケシ栽培をやめさせ、代わりにコーヒー豆や烏龍茶を栽培する試みが実を結んできた。将来的には2012年から2026年の第三期で住民の完全な自立を目指している。

王室による「ドイ・トゥン開発プロジェクト」は、現国王の御生母であらせられるシーナカリンタラーボーロマラーチャチョナニー様が推進された森林の再生と山岳民族の救済のプロジェクトで、ご逝去された後もチェンラーイ側のドイ・トゥンがその象徴となっている。御用邸、御王母陛下記念館、メーファールアン・ガーデン、植物園、動物園、工芸品生産センター、そしてチェンセーン側の広大な山すそに広がる黄金の三角地帯公園内に「阿片展示場」がある。

建物は何と山をくりぬいて造られている。
エントランスで料金(300バーツ)を支払い、入るといきなり137メートルの暗いトンネル通路が現れる。壁には地獄の苦しみから逃れようともがき苦しむ阿片中毒者のモニュメントが一面に彫り込まれていて圧倒されながらも通り抜けると、その先にはケシ畑の模型、次はビデオ室で展示場のガイダンス映像を観てから3階の「阿片の歴史」で古代エジプトから中世のヨーロッパまでの阿片についてお勉強。
その後も照明や光の表示に案内されて館内を進む。先に述べた「三角貿易」、「アヘン戦争」、2階へ進むとタイ国内での阿片汚染についての展示などが写真やビデオ、模型などで紹介されていく。ケシから阿片ができるまでのビデオも興味深い。
圧倒されるのは阿片吸引の道具や阿片窟の再現を展示してあるスペースで、寝台に横たわり阿片を吸う等身大の人形があったり、芸術品のように美しい阿片を入れる器などを数多く見ることができる。

最後に麻薬で命を落とした世界中のスターについての資料が展示されていて見学者へのメッセージになっている。
全てをじっくり見ると2時間以上はゆうにかかるが、見ごたえは十分である。



(写真1)阿片窟の中毒患者 ※写真提供メーファールアン財団

(写真2)地獄のトンネル(パンフレットより) 
 
(写真3)阿片を精製する村を再現(パンフレットより)



文・写真: 城戸可路