バインミー - Asia Production Service Co.,Ltd.

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バインミー

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ずいぶん昔のことですが、初めてのベトナムロケの時、ハノイの街に屋台というより、道端に籠を置いてそこに小さな調理場のような物があったので「なんだろう?」と気になり中を覗いてみました。なんと山ほどあるフランスパンでした。「あー! フランスパンだ!!」と叫ぶと、ベトナム外務省新聞局から派遣されてきていた撮影監視官(がちがちの共産党員)が「フランスパンではありません!!」と言うので、「えっ、これフランスパンでなければ何パンですか」と問い返すと「ベトナムパンです!」と一喝されました。
内心「どうみてもフランスパンなんだよぉーな」と思いつつも、こんな事で反感を買いたくないのでぐっとこらえ「へー、ベトナムパンなんだぁ、ベトナムは米が主食だと思っていたのですが、パンも食べるのですか?」と聞くと「主食は米だが、フランス統治時代にフランス人が持ち込んだもので、まぁ、お菓子のような存在です」とのこと。「何だ、やっぱりフランスパンじゃないですか」と口まで出掛けたその言葉をぐっと飲み込んだのを記憶しています。

そうなんです。ご承知の通りベトナムをはじめカンボジア及びラオスがフランスに長期に渡り植民地化されていた時代の食文化にフランスパンが組み込まれていたのです。
その名残りというより定着したフランスパンが現在でもベトナム、カンボジア、ラオスの市場をはじめいたるところで売られています。そのほとんどがなんと自家製だと知り少し驚きました。そして、これがまた旨いのです。
で、このフランスパンをベトナム人がどのように自分たちの食文化に取り込み食べているのかは、ガイドブックなどで知ってはいたので、食いしん坊の筆者はベトナムに行ったら是非食べたいと思っていたものの一つでした。
ところが、その当時ベトナム外務省がホーチミン市で定宿にしていたホテルの斜め前に、このフランスパンにいろいろな具を挟みサンドウイッチにしてくれる屋台が運良く(?)あったのです。
屋台といってもリヤカーにガラス張りの小さなショーケースがのっかっているだけの移動屋台ですが、そのショーケースにはパンに挟む具材が入っていて、パンは、と思うと台の下に炭火の七輪と一緒に並んでいました。
筆者は一時、この屋台のベトナムサンドウイッチの虜となり昼飯をキャンセルして、とは嘘で、夕飯が終わった後、これを2本必ず買いホテルの部屋で食べたものです。

で、この項をご愛読いただいている皆様は、この食いしん坊の筆者が虜になったベトナムサンドウイッチの中身、そう具材に興味をお持のことと思います。
まず、ハムそしてレバーペースト。しかも自家製というので作り方を訊いてみました。「家伝なので極秘」だとか。まさか。
それと、三角ソフトチーズ、きゅうり、香菜、スライスした少し大き目の唐辛子、それと醤油が入ってるっぽい瓶。
屋台のおばちゃんが、少し焼いたというより温めたフランスパンを片手に、おもむろに縦にすーっと包丁を入れて開き、レバーペーストを塗りたくり、三角チーズ、ハム、ソーセージの薄切りを3枚ほど、スライスした唐辛子を5枚ほど挟み、醤油らしきビンの中身を降りかけパンを閉じ、それを丁度よい大きさに切った古新聞に巻き輪ゴムでぴっと留め、ハイ、出来上がり。
それで当時は5000ドンでした。今だと多分8000~10000はするでしょう。あれから、かれこれ15年近く経っていますから。

それで例の撮影監視官に「これがベトナムサンドウイッチですね!」と言ったら即座に「違います! これはバインミーという昔からベトナムにある食べ物です」と。


文・おもだか まさし

アジア旨いもの紀行


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